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最高裁判所第二小法廷 昭和43年(オ)544号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人上矢袈裟冨、同平松久生の上告理由一について。

原判決は、火災保険契約を締結するにあたつて、保険者は契約の成立と同時に保険料を徴収し、その領収書を交付する取扱いをしているのが通例であつて、被上告会社においても同様の取扱いをしていることが認められるから、上告人と被上告人間に上告人主張の火災保険契約が成立したと認定するためには、右の取扱いにそう相当な証拠が存在することが必要であるとしたものにすぎず、所論のように、保険契約は諾成契約ではなく、その成立について一定の方式を必要とする要式契約であり、または一定の給付を必要とする要物契約であると解したものでないことは、その判文に照らして明らかである。そして、原判決の挙示する証拠関係に照らせば、上告人主張の保険契約の成立を認めることはできない旨の原審の判断は首肯しえないものではないから、原判決に所論の違法はない。論旨は採るをえない。

同二について。

所論は原判決に判断遺脱の違法があるという趣旨に解されるが、原審第一回口頭弁論調書によれば、第一審における口頭弁論の結果の陳述は、第一審判決の事実摘示に基づいて行なわれたことが明らかであるところ、第一審判決の右事実摘示によれば、所論の点に関する上告人の主張は、「火災当日、布施、佐久間らは、普通保険約款第二条二項の規定いかんにかかわらず、保険金を支払うことを確約した」というにあるから、原審は所論の点について判断を加える余地はなかつたものである。してみれば、論旨はその前提を欠くものというべきであるから、排斥を免れない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

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